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突然ですが、みなさん和菓子はお好きでしょうか?
いろいろなスイーツがSNSや雑誌をにぎわせ、スーパーやコンビニなどで目にする機会も多い昨今ですが、和菓子に使われる素材の素朴さや、ほどよい甘さに安心感を感じる方も多いのではないでしょうか。
今回は和菓子の中でも、「種菓子」と呼ばれる最中の皮やふやきせんべいを専門に焼き上げ、県内外の和菓子屋に卸しをおこなう髙尾最中種商店にお邪魔しました。
『栗林公園の松、桜、雪』は栗林庵のオリジナル商品で、2022年3月の販売開始以来、累計1500個以上を売上げるヒット商品になりました。もち米粉をベースにほのかに感じる醤油風味のせんべいに高瀬茶などを混ぜ込んだ和三盆糖を表面に塗った昔ながらの素朴で上品なお菓子です。甘味がやさしく軽い食感なので、食べ飽きることがなくリピーターも多くいます。
それではさっそく、『栗林公園の松、桜、雪』シリーズの製造工程を見ていきましょう。
○もち米の玄米を精米→洗米→浸水→脱水の工程を経て、製粉する
まず自社で保管するもち米の玄米を精米し、それを粉にします。
このもち米を製粉するために必要なのが製粉機なのですが、最中の皮を作る事業者の中にも自前で製粉機を持つところと持たないところがあるようです。製粉機を自社で持つことにはメリットとデメリットがあります。デメリットとしては、当然お米の管理を自分たちで行う必要があり、作業工程や清掃作業が大変だったり、また準備に時間がかかるため急な注文に対応できないということが挙げられます。
そして、メリットは自社で製粉を行うことによって、新鮮なもち米粉を原料とすることができ、美味しい種菓子を作ることができるという点です。
○こねる(生地をつくる)
新鮮なもち米の粉に水と砂糖、醤油を混ぜ合わせミキサーでこねます。(ちなみに醤油は香川県産の醤油を選りすぐっているそうです。)
ミキサーでこねた生地は機械で圧延し、手作業で裁断します。
○ローラーでサイコロ状にカットする
板状になった団子の塊を商品ごとの幅にカットし、専用の機械に通すことでサイコロ上の団子ができます。生地は時間が経つとどんどん硬くなるので、すぐさま焼成作業にかかり、ふやき煎餅にします。
○鉄板で焼く
サイコロ上の団子を鉄板に並べ上下から挟んで焼き上げます。そしてサイコロ状から円形に広がったせんべいをまだ熱いうちに手で半分に折り曲げ、さらに焼き上げます。この時に厚みと形を調整するそうですが、誰がやっても同じようにできるわけではなく、ふっくらと軽い食感で綺麗な円型にするには熟練の技が必要とのことでした。
ちなみにこの機械を作っていた会社も今では無くなってしまったので、メンテナンスは自分たちで行うそうです。この機械だけではなく、他にも最中の焼成機のメンテナンスについても同様で、そこの調整にも長年の経験や感覚が必要になります。
○砂糖を塗る
和三盆、上白糖、卵白、水など混ぜたものを全て手作業で焼き上がったせんべいに塗っていきます。(写真は『栗林公園の松』。高瀬茶の粉末が入っているため緑色をしています。)
通常、どうしても塗った砂糖が流れてしまうそうですが、試行錯誤の末、砂糖が流れない方法にたどりついたそうです。
また、砂糖も日にちが立つほどにどうしても劣化してしまうので、作り立てを出荷できるように、製造と在庫管理には気をつかっているそうです。
○乾燥
○包装
そして乾燥させたものを専用の機械で個包装し、完成です。
話を聞くところによると、製粉したもち米粉はその日の気温や湿度によって調子が違ってくるため、何十年も前からその日の気温や湿度、材料の配分、焼き時間などを細かく記録したノートをずっとつけているそうです。昨今はほとんどの作業を機械が行なってくれるということが多い中、髙尾さんは生地の柔らかさやその日の気温などいろいろな条件に合わせて、材料の配合、分量や焼き加減などを“職人の長年の勘”で調整しており、365日、変わらぬ製品をつくれることが髙尾最中種商店の強みと語っていました。
パッケージデザインをお願いした藤本 誠さんのイラストを額に入れて作業場の壁に飾っていました。
パッケージについてだけではなく、商品開発についての心構えなどについてもお話しを伺い、深い感銘を受けたため、藤本さんにコピーをいただいたそうです。
作業場の中には最中の皮を成形して焼き上げるための型がありました。この型を作る会社も日本全国で数社ほどしかなく、注文しても半年以上かかることも珍しくはないそうです。最中の焼成型は240度前後の温度で使用されるので、熱によるゆがみや、経年劣化による模様の荒れが出てくるとのことです。
できるだけ最中型が長持ちするように、最中型・焼成機の普段のメンテナンスを自分たちで行うことができるのも髙尾最中種商店の強みの一つだそうです。
○新店舗について
現在開店準備中の新店舗についてもお話を伺いました。(2022年10月現在)
新しい店舗ではオリジナルの最中も販売予定で、こちらは新たに自社用に型を作成し、自宅でオリジナルのあんこを最中の皮にはさめるような販売方法も検討されているようです。
お店では最中などを販売するのはもちろんですが、せんべいや最中のできるまでの過程がわかるようなパネルを設置するそうです。自分たちが作ったものを売ることが目的ではなく、せんべいや最中の文化やおいしさを知ってもらうことで、和菓子業界全体に興味を持ってもらって、ゆくゆくは本業である卸業を活性化させるのが狙いだということです。
これまでは卸業を中心に事業をされていたようですが、これからはそれ以外の新しいことにチャレンジしたいという前向きなお話も伺えて、こちらも背筋が伸びるようでした。これからの髙尾最中種商店にもみなさん期待してください。
髙尾最中種商店は祖父、祖母の代から父、母、息子、奥さんとご家族を中心に長年つづけられてきたようですが、経験と勘をたよりにおいしさのために妥協のない製造方法を守り通しているのを今回の取材で強く感じました。また、ハイテクな機械まかせではなく、自分たちで細かいメンテナンスや調整を行い、全体としてどこか人肌の温度を感じることができるところが、最中やせんべいの安心感のある素朴な味につながっているのだと感じました。みなさんも、昔ながらの最中やふやきせんべいの味をあらためて再発見していただければうれしいです。
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