【陣屋菓子司】ふっくら、しっとり。手包みで生まれる銘菓「献上栗」

【陣屋菓子司】ふっくら、しっとり。手包みで生まれる銘菓「献上栗」

高松市の中心部から少し離れた静かな場所に、陣屋菓子司はあります。
夏の暑い日、青空に映える白いのれんと涼しげな緑が迎えてくれました。

高松藩の歴史に思いをはせた和菓子「献上栗」

陣屋さんは1977年創業の和菓子店。
店名からは厳格な雰囲気を想像する方もいらっしゃるのではないでしょうか。でも、ご心配なく。お店に入るとそこは和モダンの親しみやすい空間。2代目社長の土居裕明さん、土居純子さん、川井美和子さんが温かく迎えてくれました。ちなみに店名である「陣屋」とは侍が集まっていた場所のことで、歴史好きだった初代が名付けました。

ショーケースにはかわいらしい季節の生菓子や「和三盆製 釜焼加寿貞良(かすてら)」などが並んでいます。

陣屋さんの看板商品の「献上栗」もあります。

献上栗は、栗が丸ごと一粒入った白あんを薄皮で包んだ栗まんじゅうです。
先代が江戸時代に高松藩主が栗林荘(今の栗林公園)で収穫した栗を将軍家に献上していたことから発想を得て作り上げました。それ以前にも刻んだ栗をあんに入れた栗の形をした栗まんじゅうを作っていましたが、「献上栗」として今のスタイルに一新しました。

現在、栗林公園にある掬月亭(きくげつてい)では、抹茶のお茶菓子に献上栗が提供されています。そこで召し上がったお客さまが「おいしかったから」と帰り際に栗林庵に買いに来られることもよくあります。

生菓子のようなしっとり感が魅力の「献上栗」

全国の和菓子屋さんが栗まんじゅうを作っていますが、献上栗のこだわりは「生菓子に近い栗まんじゅう」であること。生地は薄くて、中の白あんとなじみ、しっとりとした食感が特徴です。「じつは、栗まんじゅうのパサパサとした食感が苦手だったのですが、結婚してここの栗まんじゅうを食べたときに、おいしいなぁと思ったんです。お抹茶にもよく合うんですよ」と純子さん。

生菓子に近いしっとり感を生み出すためには、生地の薄さが重要だとか。機械では再現できないことから、一つ一つ手作業であんを包んでいます。

生地とあんの一体感を生み出す技と工夫

まず、卵、砂糖、水あめを加えて混ぜ合わせて、生地のもとを作ります。この生地のもとのことを、陣屋さんでは「蜜」と呼びます。黄金色とろみがかったそれは、まさに蜜。

ここに小麦粉を加えてこねると、たまご色のきれいな生地に。香川県産の伝統的な砂糖「和三盆」も使って、さらりとした甘さとしっとり感を生み出しています。今は甘さ控えめのお菓子が多くなっていますが、白あんは「少し甘さがある方が、人はおいしいと感じる」という先代の教えを受け継いでいます。

丸ごと一粒の栗の甘露煮を白あんで包み、さらにそれを生地で手包みします。生地が薄いので、栗の形がはみ出さないようにすることが難しい点と川井さん。
「包む人によって形に個性が現れるんですよ」と言う土居さんは、高松藩に献上するという気持ちを込めて、どっしりとした形に仕上げます。

刷毛で余分な小麦粉を払ってから、てっぺんに卵の黄身を二度塗り。表面に霧吹きで水を吹いて釜へ。

焼き始めから20分ほど経った、少しレアな状態で釜から出します。卵と砂糖の甘く、どこか懐かしい香りが厨房に広がりました。焼き上がった献上栗は、黄身を塗ったところに照りが出て、ぷっくりとした姿がかわいらしい。

焼き立てを特別にいただきました。皮はサクッと、あんはふっくらとしています。

時間が経つと徐々にあんの水分が皮に移って、しっとりと味も落ち着いていくとのこと。

まだ少し熱いうちにポリシートで包んでいきますが、そこには、しっとりとしているがゆえの苦労も。実は以前、返品された献上栗を開けてみると、ポリシートにまんじゅうの皮がくっついてしまっていたことがありました。
それからは、お客さまが食べるときに、なるべくシートにくっつかないように、生地の配合や包むときの温度を試行錯誤したと土居さん。

生地の状態は日々の気温や湿度で変わるため、水分量に注意して作っていると教えてくれました。
ちなみに、形のわるいものは「カミナリ栗」という名前で店頭に並びます。これを目当てに来るお客さまも多いのだとか。

時を越えて愛される栗まんじゅう

手作業だから一度に作れる数は300個ほど。
手作業なのは、生地の薄い、しっとりしたまんじゅうに仕上げることが理由ですが、もう一つ理由があります。それは材料を無駄なく最後まで使うこと。
「機械ではどうしても材料が残ってしまうので。材料も大切にしたいですからね」陣屋さんのお菓子作りに対する思いが垣間見えた瞬間でした。

初代、そして2代目と、時代とともに少しずつ工夫を重ねながら作り続けてきた献上栗。
「流行りものではなく、長く楽しんでもらえるお菓子でありたい」とみなさん口を揃えます。この秋からは土居さんの娘さんがお店を手伝ってくれることに。今日も一つ一つ丁寧に作られた献上栗は、次の世代へと引き継がれていきます。